小説

クリスマス

クリスマス

2020年に体験した実話です。



どんな、カルマ的な運命のいたずらか知らないが、

2020年12月25日、

人混みでごった返す難波の地下街を一人で歩いていた。

コロナ禍にもかかわらず、日本の関西という土地にいなければならなかった。

関西の土地に誰か友人がいるという訳でもなかったが、

奈良、京都、神戸の土地で過去生の浄化を行う必要があったのだ。

僕にとって必要な役者は全てそろっていた。

瞑想の大家の先生は関西にいたし、ちょっとした知り合いも何人かはいた。

目覚めのプロセスはいつも孤独だ。

先生は、どっちの方向へ歩いていけばよいのか、

教えてくれる。北なのか、南なのか、東なのか、はたまた、西北西なのか・・

方向はおしえてくれるのだけれど、どれだけ距離を歩かなければならないのか、

どんな障害が待ち受けているのか、どこがゴールなのか、教えてくれることはない。

まるで、コロンブスが大西洋を横断してアメリカ大陸を発見するため、

大航海に出たときのことを思い出す。

アメリカ大陸が、本当にあるのか分からないし、

無事に辿り付けるのかもわからない。

羅針盤に従い、大海原に乗り出す。

いやいや、スピリチュアル的な目覚めの旅路の方が、

コロンブスの冒険よりも、もっと困難を伴うのかもしれない。

だって、仲間は誰もいないし、ゴールが本当にあるのかどうか、分からない。

今生で達成しなければ、来世でもチャレンジしなければならない。

結局最後は、みな自力でたどり着くしかないのだ。

とにかく、僕はカルマ的な要因が絡み合い、大阪は難波の地下街を歩いていた。

午後7時のクリスマスの地下街は、マスクをした若者で溢れていた。

おそらく、お年寄り連中はコロナが怖くて自宅に引っ込んでるんだろう。

心斎橋方面にホテルを予約しているので、

難波から心斎橋方面に向かっていた。

重い白いスーツケースをゴロゴロと引きずり、

土地勘の無い大阪で迷子になりながら、地下街をさまよっていた。

クリスマスというイベントをできるだけ、楽しくすごそうと、

いや、できるだけ不幸になるまいと、みんなはしゃいでいる様だった。

僕は、ふと思った。

地下街は、こんなに沢山の人々で溢れかえっているのに、

なぜ僕は一人ぼっちなのだろう?

どうして、話せる人が誰もいないのだろう?

何百人もの人々が地下街にいるのに、

知り合いが一人もいないなって、何かおかしくないか?

一人も話せる人がいないって、おかしくないか?と思った。

その時、僕の視界の中に宇宙が浮かびあがってきた。

星々が輝いている、

たくさんの銀河が、鮮やかに見える。

一体、どうしたのだろう?僕は、驚いた。

地下街を行き交う人々に、覆いかぶさるように、ホログラム状の宇宙が見える。

私は、“関 カオル”であると同時に、

もしかしたら、“宇宙”ではないか?と思った。

いやいや、まてよ、宇宙そのものなのだ。

僕は、思わず笑みがこぼれた。

ああ、この宇宙は、なんて、この世界なんて、

緻密で、精巧、完璧に、創り上げられているのだろう?

僕が、関 カオルであり、宇宙の創造主でもある。

その完璧さに、思わず涙した。

階段を登り、地下街から地上へ出る。

御堂筋には、大丸の緑色のネオンサイン、大きな“大”の文字が見える。

ホテルはたしか、大丸の裏手のはずだ。

スーツケースを引きずりながら、御堂筋を歩く。

僕のハートが次第に広がってゆく。

意識を少し深くずらすと、そこには、漆黒の闇が広がっていた。

僕は、そのブラックホールに吸い込まれるのが恐ろしくなり、

慌てて、“カオル”に戻った。

パチンと軽いショックが、頭に感じた。

ああ、いまのは一体何だったのだろう?

いっそのこと、思いきって漆黒の闇のブラックホールに

吸い込まれてしまった方が、

スッキリして良かったのかもしれない。

これは、瞑想の大家の先生が話していた、宇宙意識だったのだろう。

人生とは、最高のジョークなのかもしれないと、僕は思った。

僕にとってのクリスマス・プレゼントだった。

<完>

2023年 3月28日 吉日

背景:2020年11月 〜 2011年9月に体験したお話。