チェンマイに来る前に、
1人のSGMグループの先生と話をする機会があった。
「あの人のところには、絶対行っちゃだめよ」
「どうしてですか?」と僕は尋ねた。
「ジョンは、あなたに癒を与えてくれるわ、
でも、それでも幸せにはならないわよ」
「だって、あの人、幸せそうじゃないでしょう?
財布の中身は、いつも空っぽだし…」と言った
僕は、なんて答えて良いかわからなかった。
ジョンは、いつも“ハートに従いなさい”と、教えを説いていた。
「人生に計画なんて不要だ? 鳥をみてごらん?」
「鳥には一日の予定なんてないだろう?」
「だから、鳥たちは毎日楽しくやっている。
ほらごらん、鳥が飛んでいった先には、ちゃんと食べ物があるだろう?」
「ハートに従うのが人生を楽しむ唯一の方法だ・・」とジョンは言った。
僕のハートが求めているものは、カルマを昇華し、悟りを開くことだ。
それが僕の魂が心から望んでいるものだった。
だから、僕は、ジョンに会うのだと数年前から確信の様なものがあった。
*
翌朝、ジョンが彼の白いカムリで僕をホテルまで迎えに来てくれた。
「カオル、どうだい、調子は?準備はできたかい?」
ジョンの様子が昨夜とはガラリと変わっているのに気がついた。
アイロンがきいたパリッとした白いシャツを着込み、
彼のオーラは輝きに満ちていた。
講義の前日には、体調を整えるためにお酒は避けていると言った。
ジョンのスタジオ兼スパは、ホテルから車で10分ほどの距離にあった。
とても大きな施設で、フットボール場ほどの大きさがある。
プール、スパ、サウナ、食堂そして、ヨガで使うスタジオも完備していた。
地元で有名なヨガの先生が好んでクラスを開催しているほど、
立派なスタジオを備えていた。
建物はアッセンデット・マスターから受け取った
インスピレーションをもとに、
ジョンがエネルギーのバランスを考え精妙に設計したのだと
自慢げに教えてくれた。
*
スタジオでは、ジョンの女性アシスタントのキャシーが祭壇を掃除し、
市場で買ってきた花や果物をお供えしている最中だった。
キャシーは、チェンマイ育ちのタイ人。
地元のインターナショナル・スクールを卒業したばかりで、
ネイティブの様に流暢な英語を話す。
若い世代にまで瞑想が浸透しているなんて、
やっぱりチェンマイは仏教徒の土地なんだあ、と僕は感心した。
寺院の様な雰囲気のスタジオの真ん中で、
一人ぽつりと座りキャシーが準備を進める様子を見ていた。
まだ、午前10時だというのに外の気温はグングンと上昇を続けている。
タイのジリジリとした太陽が、容赦なく辺りを照りつける。
建物の外に備え付けられたエアコンの室外機が、カタカタと音を立てている。
キャシーが祭壇に蝋燭、線香、献花の準備をはじめると、
次第にスタジオの空気がゆらぎ、小刻みに振動を始め、
キラキラとした光の粒が舞っているのに気がついた。
空気は徐々に透明感を増し、
スタジオはまるでヒマラヤの麓に来たかの様な神聖な寺院へと変化していった。
スタジオの波動が急に高くなったので、僕の体はビックリし、
芯からガタガタと震えはじめ、ちょっとしたパニックの状態になった。
ジョンがやってきて、祭壇のロウソクと線香に火をつけた。
大昔の記憶を呼び起こす様な、懐かしい香りが漂ってくる。
「スピリチュアルなエネルギーが高まりつつありますね、ふっ飛ばされそうですよ!」と
僕は、緊張を隠そうと冗談っぽく言った。
「カオル、気づいたか?」
「今、アッセンデット・マスター達を呼んでいるかなら」とジョン。
彼は、首に大きく長い数珠をかけ祭壇を背に座った。
ジョンの背後には、観音様や、阿弥陀如来などの
仏像美術やチベット美術の絵画が飾られている。
タイの山奥にある洞窟の中では、数百年の昔から、
今でも数人の僧侶がずっと瞑想を続けているという話を聞かされ、僕は驚いた。
数十人がヨガのできる様に設計された大きなスタジオには、
ジョンと僕、そして助手のキャシーの3人しかいない。
ジョンの背後には、アッセンデット・マスター達が控えている。
ジョンは、日本では見かけないほど丈の長い線香に火を付け、
煙がゆらりと流れ出るのを確認すると、マントラを唱えながら、
ブッダの前に備え付けられた、線香皿に供えた。
僕は、武者震いした。
いよいよ、この次元で唯一、最高の“意識の段階に達した瞑想家”
ジョンによる講義が始まるのだ!
「それで、カオル何か質問はあるかい?」
その当時、僕のスピリチュアルな浄化の旅路はまだ道半ばで、
癒やされていない過去生の存在達と一緒にいた。
「なぜ、私達はこんなに苦しまなければ、ならなのでしょう?」
「なぜ、悪と呼ばれる存在は、
こんなに虐げられ、苦しまなければならないのでしょう?」
「悪役ほど、救われるべきなのではないでしょうか?」
「何度も、何度も、生まれ変わっては同じ過ちを繰り返し、
戦いは、もう・・うんざりですよ、“カルマの車輪”なんてうんざりです」
僕が、“カルマの車輪”と言った途端、ジョンとキャシーは目を丸くし、
お互いの顔を一瞬見合わせた。
キャシーは下を向いて、クスリと笑った。
彼らは、僕が講義の中で何を尋ねるか、
前もって一字一句正確に知っていたかの様だった。
ジョンは神様が生まれた瞬間に、悪魔が生まれると教えてくれた。
つまり、プラスのエネルギーを持つ神様が現れると、
バランスをとるために、マイナスのエネルギーを持つ悪魔が宇宙に生まれるのだ。
そこには、善も悪もない、神も悪魔もただの役割でしかないと教えてくれた。
この世に現れる前に、神を演じるのか、
悪を演じるのか配役を決めているだけだと言った。
「ああ、なるほど、スターウォーズですね?」と僕は言った。
「そうだ、スターウォーズだ。でも、そこには、ヒーロも悪役もない」
「悪役のいない西部劇なんてつまらないだろう?」とジョン。
生命という物語だけが展開しているだけだ。
僕は、その通りだと思ったが、
自分の奥底で納得しない何かが動くのを感じた。

オーストラリア在住21年の筆者が、自然療法であるホメオパシーでパニック発作を治療したところ、苦難の末、壮大な一瞥体験をし、2015年にスピリチュアルに覚醒した体験記。
”冗談だろう? 人生って、ジョークだったのか? あまりの可笑しさに、僕は笑いが込み上げてきた。 僕たちは、人生というドラマの傍観者だったのだ。でも、そこには愛が満ち溢れている。 いや、どこもかしこも、愛でギッチリ溢れているのだ。” 〜本文より〜
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・自然医療に興味のある方
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