ジョンの講義には、始まりがなく終わりがない。まるで、宇宙だ。
次から次へと話題が変わり、
講義はまるで神の調和の中で息吹く新緑の様に自然に流れてゆく。
講義の内容は宇宙の意識の進化の話題へと変わった。
宇宙は、何十万年もの周期的なサイクルの中で進化していると、
カリユガとサティユガという時代、
つまり、カルマの重い時代と軽い時代が交互に繰り返しているという話だ。
ジョンの教えの真骨頂は、カルマについて教えだった。
カルマは、人生の宿題だと言った、人の肉体はカルマの塊だと教えてくれた。
肉体にはカルマがあり、魂にもカルマがあった。
一般的にカルマが悪いものだと考えているが、決してそうではない。
魂と神と自分との合意のもと、今生で昇華するべきカルマの量を決め、
この地球に私達はやってきたのだ。
「カルマは、宇宙を進化させる燃料だ」とジョンは言った。
僕も、全く同感だった。
カルマとダルマの教えについて、
ジョンの右に出るものは誰もいないだろう、と僕は思った。
叡智は、私達の中にある。
本当は、私達は、あっけにとられるほど、
簡単で容易にその叡智にアクセスすることができると言う。
実際、この宇宙には我々の想像をも遥かに超える、知性体達が存在する。
でも、その宇宙の叡智にアクセスする為には、
自分の小さな肉体に留まるのではなく、
意識を、空(くう)と呼ばれる、何もなく、
そして、無限の領域に踏み込まなければならない。
僕は、ジョンの講義を全身全霊で食い入る様に聞き入り、
その豊富な知識とスケールの大きさに、僕は完全に魅了された。
講義の内容が不自然なほど、僕の魂が知りたいと思っていたことと、
ピッタリと合致したに驚いた。
ジョンこそは、この地球で唯一、
宇宙の真理をアクセスできる先生だと僕は確信した。
*
その日の講義が終わり、
ジョンは、僕とキャシーをカムリに乗せ、ホテルへと向かった。
途中キャシーの住んでいるアパートに立ち寄り、彼女を先に降ろした。
玄関先に立ち、笑顔で手を振っている彼女にジョンはウインクした。
ジョンがアクセルを軽く踏み込むと、
カムリのエンジンが、ブウンと軽快な羽音をあげた。
しばらくすると、ジョンが言った。
「いい子だろう?」
「えっ?」
「彼女だよ?」
「手を出すとまずいよね?」
「生徒に迷惑がかかるだろうし、SGMグループをダメにしたくないからね」とジョンは、続けた。
何かの冗談だろうと僕は思い僕は、
「別にいいんじゃない?」とおどけながら答えた。
まさか、宇宙の叡智にアクセスできる瞑想会の先生が、
教え子に手を出すことはないだろうと思った。
「観音堂」
今、思い返しても、ジョンと過ごした一週間は特別な時間だったと思う。
ある時、僕たち3人は、ジョンの運転するカムリで、隣街にある寺院に向かった。
それは、観音様の祀られている由緒正しいお寺だった。
ここの観音様は、何でも願いごとを叶えてくれるんだ、
とジョンは意味深げに言った。
そして、不思議な話をしてくれた。
ある時、ジョンの友人の1人が病に倒れ、
医師から余命3ヶ月だと告げられていた。
ジョンと彼女の家族は、彼女の為に連日祈りを捧げた。
だが、彼女の病状が改善することはなかった。
ジョンは何か彼女の為に出来ることはないかと、観音様の寺院に向かった。
門を叩くと、タイの僧侶が現れた。
ジョンの表情をチラリとみると、何かお悩みがあるのですね…?と尋ねた。
「実は、知り合いが不治の病でして…」とジョン。
「簡単ですよ、何か好きなものを諦ることは出来ますか?たとえば、好きな食べ物とか」と僧侶は言った。
「そうだね、豚肉とかどうだい?」ジョンは答えた。
「それで、大丈夫ですよ」と僧侶は答えた。
「今日から、豚肉は一切口にしないから、ご病気の友人の命が助かりますようにと、観音様のお願いしてごらんなさい・・」
「わかりました」とジョンは答えた。
その日を堺に、ジョンは豚肉を一切口にしなくなり、
余命3ヶ月と宣告された知人は奇跡的な回復を遂げた。
*
観音様の寺院へ向かう道中、
助手席の窓から、流れるチェンマイのどかな風景を見ながら、
僕は、ひとつ悩んでいたことがあった。
これは、ジョンに伝えるべきなのか?
どうしよう?と迷っていた。
でも、彼に伝えようと思い、わざわざチェンマイまでやってきたのも事実だ。
それは、僕のダークサイドとの契約についてだった。
サイキックのアブドルとの
激しいヒーリングと霊視セッションの中で、
僕にはダークサイドとの契約があり
7回の人生で死ななかったことを知った。
クンダリーニヨガのクリアで、サムライだった頃の過去生の浄化を、
激しくやっていたので、
7回の人生で死ななかったことは、とても腑に落ちる内容だった。
僕は、ハンドルを握るジョンの横顔をチラリと見ながら、
鉛の様に重い口を開いた。
「ジョン、実は…」と絞り出す様に話しかけた。
すると、突然、ジョンが、
思いっきりブレーキを踏んだ。
「キャー!」と後部座席のキャシーは悲鳴を上げ、
タイヤが道路の表面に擦れ“キーッ”と大きな音がし、
僕達は、体が前方向につんのめり、カムリは急停車した。
車の前には観光客らしい2人の女性が、
こともあろうに2車線の道路のど真ん中で地図を開き立っていたのだ。
彼女達も、驚いたらしく僕たちのことを怯える様に見ていた。
「まったく、中国人観光客はこれだからな!」とジョンは言った。
なんでも、チェンマンには沢山の中国人観光客が連日押し寄せていて、
彼等は全然交通ルールを守らないと、文句を言っていた。
僕は突然の出来事に呆然としていた。
ああ、なんてこった。
ダークサイドの契約の話を伝えるタイミングを失ってしまった…
と僕は思った。
*
観音様の祀られている寺院の敷地は、
想像していた以上に大きく、そして、色褪せていた。
寺院を維持するための予算が不足しているのか、
ところどころペンキが剥げ、みすぼらしい感じがした。
庭には、見上げるほどの大きな観音様が祀られていた。
通路には、七福神の1人である、
布袋さんが描かられている大きな絵画があり、
ジョンは逸話を教えてくれた。
“神様の晩餐会に招待された布袋さんは、
いつも宴の最中はウトウトと居眠りし、
宴の終わりになると目を覚ます。
そして、残りモノの食べ物を袋に詰めていた。
周りの神様連中は、彼は一体何者だい?とヒソヒソ話をしていた。
布袋さんは、実は、袋に詰めた食べ物を、
貧しい人々に配り、福を分け与えていた。“
布袋さんは、後に自分をマートレイヤつまり、弥勒菩薩の化身だと
自らの正体を他の神々に明かしたという。
*
僕たちは、お寺の境内にめぐらされた、
小道を矢印の順路の通りに進んだ。
観音様の銅像の前に到着すると、線香に火をつけてお参りをした。
ジョンは、お経を唱えながら、うやうやしくお祈りをした。
「何のお願いをしたのですか?」と僕が尋ねると
「カオルの次の仕事が見つかりますように…」と、お願いしたと教えてくれた。
僕は、3ヶ月程前に16年間勤務したITの仕事を退職したばかりで、
次の仕事を探している最中だった。
瞑想の大家である先生が、
僕の為にお祈りをしてくれるなんて、とても嬉しく思った。
僕達は、お寺の入口にある、砂利道に止めた車に戻った。
由緒あるお寺だと聞いていたのに寺院は色褪せていて、
みすぼらしかったし、なんだか肩透かしを食らった気がした。
*
ジョンの運転する車は、チェンマイの街の渋滞に飲み込まれた。
窓の外には街の混沌とした風景が広がり、
車の中に流れ込んでくる空気は、湿度が高く熱気を帯びていた。
道路の脇には、電線がスパゲティの様に絡まった電柱が、
その重みに耐えながら、アンバランスな姿勢で道路脇に立っている。
助手席に座り、チェンマイの雑多な街並みを眺めていると、
そこには沢山の人々の日常と、人生が広がっていた。
そんな世界をなにげなく覗いていると、
自分の心に小さな隙間が出来た様な気がした。
その隙間がどんどんと大きくなり、
僕のハートも一緒に広がっていくのを感じた。
それは、慈愛だった。
観音様の圧倒的な慈愛だった。
「去年の洪水で街が水浸しになって…」とジョンが話を始めたが、
僕の耳には入らなかった。
観音様の慈愛は、世界中の人々を、どんな境遇にある人々にも、
あまねく平等に救いの手を差し伸べる様に、僕たちを包み込んでいた。
まるで、太陽の光の様に、平等に人々に救いの手を差し伸べているのだ。
観音様の慈悲。
言葉では、聞いたことはあったけど、
実際に観音様の慈悲を体感すると、
その慈愛の持っている膨大な愛のエネルギーは全てを凌駕していた。
この観音様の慈愛を一度でも体験すると、
もう、2度と同じ自分でいることの出来ない、
それほどまでに、変容の力を持つ、観音様の慈愛なのだ。
アッセンデット・マスター達は、この様に世界を支え、
人類を癒やしに導いているのだろうと思った。
「ほらっ、あそこのビルの2階、窓の下に泥の痕跡があるだろう?
洪水の水はここまで上がってきたんだなあ…」とジョンの話は続いていた。
「ボーンナイフ」
ジョンの講義も最終日に近づいた。
僕には、まだ片付けないといけない問題があった。
実は、前回の講義の最中に、自分の中にいる別の存在が、
激しく動き、思わず「ウオーッ」と大絶叫してしまったのだ。

オーストラリア在住21年の筆者が、自然療法であるホメオパシーでパニック発作を治療したところ、苦難の末、壮大な一瞥体験をし、2015年にスピリチュアルに覚醒した体験記。
”冗談だろう? 人生って、ジョークだったのか? あまりの可笑しさに、僕は笑いが込み上げてきた。 僕たちは、人生というドラマの傍観者だったのだ。でも、そこには愛が満ち溢れている。 いや、どこもかしこも、愛でギッチリ溢れているのだ。” 〜本文より〜
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